2012/02/01

変身の詩 - ある女装愛好家の詩

風俗奇譚 1967年10月号

雑誌「風俗奇譚」の1967年10月号の女装愛好家たちの投稿コーナー「女装愛好の部屋」に掲載されていた、小池エミという女装愛好家が心を託したという詩。

変身の詩

陽が落ちて 宵やみが夜の訪れを告げる
ビジネスに張りつめた男の心を
しばしまた 忘却させてくれる 夜よ
寄せてくる波の 遠い水平線のかなたの
暗い海の底から 盛り上がり
ゆるやかに押し包むように
夜は 休息のほかに もう一つの意味をもって

湯あみする肌に しみ入り
吟味された カミソリの
まろやかな 歯ざわりに
なめらかになってゆく肌に
秘められた 悦びへの期待に
つき上げてくる 心のうずきは
寄せてくる波のうねりにも似て

むせかえる おしろいのにおいの郷愁
いつからか 変身の化粧もなれて
眉つぶし塗りこめてゆく 昼間の顔を
美しき女に変える たんねんな手順が
壁にかけて鏡の中で たのしげにすすめられ
くっきりと描かれたルージュの色に
ウィグのウェーブは ゆるやかに肩にかかり
マスカラの長いまつげの もう一つの顔

ほの白き灯に浮き上がり
姿見の中に 妖しくたたずむ夜の顔
夜にだけ咲きかおる花のあわれさ
ドレスに包まれ
パッドしたバストとヒップの線は
かなしくも ひとり悩ましく
しばらくはポーズを替えて
ナルシスと耽美の世界

ゆるやかな波のうねりは
やがて 音たてて
くだけつつ 白くあわ立ち
たけりたち 押し寄せて
浜辺の砂に吸い込まれるように
そのたけりを吐きだしてしまうように
姿見の中の 壁掛けの中の
鏡という鏡の中の
夜にだけ 咲きほこる花は
たくましい腕と
甘いくちづけと
激しい愛撫と
そして その高まりの極致とを
今宵もまた 夢見る


 会員になりまして、もう三年になりますか。会員の家はちょいちょい利用させていただいておりますが、投稿ははじめてです。心の中にあるものを、つたない詩に託してみました。心はいつも若く、みずみずしいつもりですので、よろしくご交際願います。

〈小池エミ〉

「女装愛好の部屋」『風俗奇譚』1967年10月号より

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